歯周病が全身に及ぼす影響

 

 近年、歯周病は口腔内の環境が悪くなるだけでなく、全身への影響が多く報告されています。実際に現代の日本人の抜歯の最大の原因となっているのは歯周病であり、また高齢者において歯が残ってなく口腔環境の悪い人は、ちゃんと管理された人に比べて認知症の発症のリスクが高くなってます。

さらに、歯周病原菌などの口腔内細菌は糖尿病脳梗塞早産低体重児出産心疾患誤嚥性肺炎などの病気との関連性が指摘されています。

また、平成23年の厚生労働省の報告で日本人の死因の3位に脳血管障害を抜いて肺炎が上がってきました。肺炎によって亡くなる方のほとんど(94%)は高齢者であり、90歳以上になると肺炎は死因の第2位になります。高齢者の肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎が関与しているといわれております。また、その誤嚥性肺炎の予防において先ず口腔ケアなどの口腔環境の整備の重要性が挙げられますので、健康を維持するには、歯科医院での定期健診が大切になります。

誤嚥性肺炎

 

 口は食事の際の入口でもあり、呼吸の際の空気も取り入れることができます。しかし、入口は一緒でも喉の奥でちゃんと食事は食道へ、空気は気道(気管)へ分かれて取り入れることができます。この調整を行っているのが喉頭蓋という気管の蓋になりますが、誤嚥性肺炎はこの蓋がうまく閉じずに食事や唾液などの細菌が気管に流れてしまって炎症が起こる状態をいいます。通常は気管に異物が流れた際は咳やむせたりして排除することができますが、反射が弱くなってきたり、脳血管障害の影響で麻痺があるとこの生理的反射ができなくなってしまいます。

 誤嚥性肺炎は、無意識のうちに唾液などと一緒に細菌が気管に流れてしまっていることもありますので、継続的な口腔ケアなどにより口腔内環境を常に整える必要、また歯科などの専門家による摂食嚥下リハビリテーションを取り入れることも重要になります。

 

 

糖尿病

 糖尿病は身近な病気で怖いものでは無い思われているかもしれませんが、糖尿病で実際に気をつけなくてはならないのは様々な合併症です。三大合併症の糖尿病性網膜症により失明の危険があったり、糖尿病性腎症は人工透析が必要になったり、糖尿病神経障害に至っては悪化すると下肢切断の恐れもあります。近年それらの合併症の中に歯周病が追加され、歯周病は糖尿病の第6の合併症と医科の世界でも認知されるようになってきました。

 日本の糖尿病において権威である日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインにおいても、糖尿病と歯周病の関係について明記されており、糖尿病の治療において定期的な歯科受診の必要性を指摘されています。

心疾患

 Floss or Die(フロスか死か)口を綺麗にするのか!それとも死を選ぶか! なかなか刺激的な言葉ですがこれは1998年にアメリカの歯周病学会(AAA)が歯周病予防のために発表したスローガンです。アテローム性動脈硬化などにより心筋などの血管がプラーク(粥状血管沈着物)で障害されると心筋梗塞だけでなく脳梗塞などを引き起こす可能性が示唆されています。実際アテローム性動脈硬化の病変部分より歯周病原菌が検出されその因果関係が多数報告されています。

 また、感染性心内膜炎は血液によって細菌が心臓の心内膜や弁膜に感染し起こる病気ですが、歯肉の傷や抜歯などにより歯周病原菌が血液に侵入してしまい、病気を引き起こしてしまう可能性もありますので、弁置換術の術後や先天性の心疾患の患者様は日頃より口腔内を清潔に保つことが重要になってきます。

早産・体重児出産

 妊娠中に歯周病を患っている妊婦さんは、妊娠35週未満で出産してしまう早産や体重2,500g未満での低体重児の出産のリスクが高まります。歯周病に罹患している妊婦さんは、そうでない方に比べてそのリスクは7倍高いと報告があり、これは高齢出産やタバコ・アルコール摂取によるリスクよりも高い数値を示しています。

 また、出産前に歯周病が無い状態でも妊娠中はホルモンバランスの変化により妊娠性歯肉炎妊娠性エプーリスなどの良性腫瘍にかかることもあります。しかしながら、基本的に歯垢の残存が少なく口腔内が清潔な場合は歯肉炎が発現しなかったり、発現しても軽度で済みますのでつわりなどで口腔内が不潔になりやすい時期などは特に気を付けてブラッシングする必要があります。